カメの代謝性骨疾患(メタボリック・ボーン・ディジーズ)(MBD)

カメの代謝性骨疾患(メタボリック・ボーン・ディジーズ)(MBD)について

原因は、食餌中のカルシウムの不足とリンの過剰です。
肉食性のカメに骨成分を含まない精肉やハム、ソーセージ、魚の切り身などを与えていると、カルシウムが不足し、リンが過剰となります。
草食性のカメにはカルシウム含有量の多い葉野菜や雑草を主食として与えるべきですが、レタスやキュウリ、果物などのカルシウムの乏しい食餌が主になっていたり、動物質、植物質を問わずタンパク質の多い食餌を与えていると同様の結果が生じます。
このほか、食餌中のビタミンDの不足や中波長紫外線(UVB)の照射不足も原因となります。
ビタミンDは動物質の食餌には含まれていることが多いのですが、植物質の食餌にはほとんど含まれていません。 一方、カメはUVBの照射により皮膚の分泌成分からビタミンDを合成することができます。そのため、UVBの供給が不十分な草食性のカメでこの問題が起こりやすいといえます。 正常なカルシウムとリンの代謝が行えなくなるため、症状としては、骨で構成されている甲羅に明瞭な障害が認められます。
陸ガメでは背甲板のひとつひとつがピラミッド状に変形したり、腹甲板に凹凸がみられることが多く、水生のカメでは体の成長に甲羅の成長が伴わないため、頭部や手足などが甲羅に入らない体形になったり背甲の辺縁が反り返ったりします。

また陸生種、水生種を問わず、甲羅が軟化することがあります。このほか、手足の骨格異常に伴って歩行困難やうまく泳げないといった問題が発生したり、顎骨の変形に伴う咬合不全(こうごうふぜん)からくちばしの変形ないし過長が生じることもあります。 さらに症状が進行すると血液中のカルシウム濃度が低下し、食欲低下や元気の消失、排泄がなくなるなどの非特異的な症状や、時にけいれん発作や昏睡(こんすい)を起こすこともあります。

通常は飼育状況、とくに食事内容やUVB照射についての情報聴取と身体検査で仮診断が可能です。確定診断やさらに詳しい病状を知るためには、血液化学検査やX線検査を行います。
軽症の場合は食事内容の改善とUVBの照射によって治療が可能です。
草食性のカメには、カルシウムとリンのバランスがよい葉野菜、たとえば小松菜やチンゲンサイ、大根の葉、モロヘイヤなどを中心(食餌全体の90%以上)に与えます。
肉食性のカメには、小魚を丸ごとか、または骨ごとミンチにしたものを与えるか、良質のカメ用固形食を与えます。どうしてもカルシウムとリンのバランスが悪い食餌しか食べない場合には、カルシウム剤を餌に補給しなくてはならないでしょう。
UVBの照射を受ける方法として最良なのは自然光による日光浴であることはいうまでもありません。1日に30分から1時間程度、屋外に出すとよいでしょう。
ただし、この場合は熱射病に配慮し、直射日光から身を隠す日陰を設けたり、高温になり過ぎない場所や時間帯を選ぶ必要があります。日光浴ができない場合は人工の光を使用しますが、ビタミンD合成のためにカメが必要とするUVBの要求量が明らかではないため、 使用法と効果、弊害については不明確な点が多いことを考慮しなくてはなりません。

しかし、人用に開発されたフルスペクトル灯や爬虫類用蛍光灯の多くは、経験上、安全で効果的であると考えられ、広く普及しています。なお、UVB照射の代わりにビタミンD剤を与える場合は非常に注意が必要です。
カメのビタミンD3の要求量も明らかではなく、また、ビタミンDの過剰摂取は有害であるからです。
これに対し、重症の場合、特に低カルシウム血症に陥っている場合には積極的な治療が必要で、そのためにカルシウム剤の注射や点滴などが必要なことも少なくありません。
重症の場合は治療に反応せず死亡することもありますが、よほど進行していなければ、致死的な状態から開放され、正常な生活を送れるようになる可能性があります。
ただし、改善するまでには長い時間がかかる場合が多いようです。

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