亀(カメ)の飼い方

カメを一言でいうと発達した四肢と甲羅をもつ卵生の爬虫類ということになる。しかし、現存するカメは約280種におよびその形態、棲息地(南極を除くすべての大陸とほとんどの島に分布している)、食性等の生態は非常に多様でありどのような生物かを一括してのべることはできない。ただし、すべてのカメに共通である甲羅の存在は他の動物、爬虫類と明らかに異なる形態であり容易に分類することができるであろう。また甲羅を背負ったユニークな体形のためか、昔話、おとぎ話の世界でも常に愛嬌あるキャラクターとして取り上げられ、他の爬虫類に比べ、親しみやすい存在といえる。事実、小さな子ガメは多くの国で子供たちに人気のペットである。

亀(カメ)の飼育について

カメ目の自然界での生活様式は、種により棲息環境が異なり、それに対応するべく非常に多様化している。当然、飼育管理法も種によって異なるがすべての種を網羅することは困難であり、一般に飼育されることの多い種を飼育管理の観点からグループ化し考えることが合理的であるため、ここでは以下の4つのグループに分けてみた。

ヌマガメに代表される一般的な水棲ガメ

生活場所のほとんどを池や川、湖などの淡水域とするもので、通常鋭い爪とみずかきのある四肢を持ち水陸いずれにも対応できるものが多い。学校で飼育されることの多いミドリガメ(通常ミシシッピーアカミミガメの幼体のこと)やゼニガメ(本来、日本産のイシガメの幼体のことであるが最近ではクサガメの幼体もこう呼ばれている)はいずれもヌマガメ科でこのグループに属する。

半陸棲ガメ

ヌマガメ科の中でもハコガメやヤマガメの仲間は種として水辺の草むらや森林に棲息し、水を好む反面、より陸上での生活に適した傾向がある。天然記念物に指定されているセマルハコガメやリュウキュウヤマガメがこのタイプに属する。中国産のセマルハコガメやマレーハコガメ、スペングラーヤマガメといった種がよく飼育されている。以前はアメリカ産のハコガメの仲間もよく輸入されていたが近年ほとんど輸入されていない。

より水棲傾向の強いカメ

産卵等の特殊な状況以外にはほとんど陸に上がらない種も少なくない。スッポンモドキのようにオール状の四肢で遊泳するものやマタマタやワニガメのように水底でじっとしていることが多いもの、スッポンのように水底の泥の中に潜むものなどがこのタイプに属する。

陸ガメ

生活場所のほとんどを陸上とするもので、歩行に適した丈夫な四肢と乾燥に耐える皮膚を持ち、通常草食性である。ロシアリクガメやギリシャリクガメなどの温帯域に生息するものはそれほど大きくなく飼育しやすい。陸ガメは例外なくおとなしく平和的な動物であるが、ゾウガメやケズメリクガメといった大型種は力が強く、相応の設備がない限り生涯にわたっての飼育は困難である。
☆この他、海ガメのグループがあげられるが、この種は個人で飼育されるべき種ではないため割愛する。

照明

室内でカメを飼育する際には、照明にも配慮が必要である。日中は明るく、夜は暗くすることは多くの動物と同様、生活のリズムをつくる上で重要なことである。多くのカメが十分な明るさのもとで食欲や行動が活発となり、暗くなることで安心して休息することができる。また多くのカメが正常な骨代謝に不可欠なビタミンD3を合成するために、中波長紫外線(UVB)の恩恵を受けていると考えられる。特に陸ガメでは、その食餌となる植物質のほとんどがビタミンDを含有しないことからも、UVBの供給は重要と推測される。
最良の方法は定期的な日光浴であるが、不可能な環境ではUVBを含む広域スペクトルの照明灯の使用が望まれる。このような照明灯はいくつかのメーカーから市販されており、放出されるUVB量は製品によって多少の差がある。カメにおけるUVB要求量の詳細は明らかにされておらず、どのような製品を使用するかは、種類や飼育者の見解により異なるであろうが、特に子供のいる家庭では人体への影響を考慮した規格の製品を選ぶことが薦められる。

食餌管理

イシガメ、クサガメ、ミシシッピーアカミミガメ、スッポン等の水棲ガメの多くは肉食傾向が強く、自然界では小魚や甲殻類、その他の水棲生物を捕食している。また種によっては水草等の植物質も多少食べている。飼育下では食用の魚介類を与えることができるが、この際に注意すべき点は、骨や内蔵を含む丸ごと与えられていないと長期的には栄養障害を起こす危険性があることである。生き餌しか受け付けない種ではメダカや金魚、ドジョウ等の淡水魚やヌマエビ、ザリガニ等の甲殻類、その他の水棲生物、ミミズ等を与える。ただし多くの種は水棲ガメ用のペレットを食べるので、質のよい製品を選べばこれだけでも栄養的に十分であり、衛生的でもある。また食べるようであれば小松菜やチンゲンサイのような葉野菜も少し与えるとよい。給餌は幼体には毎日、成体には週に2~3回を目安に行う。
ハコガメやヤマガメのような半陸棲ガメの自然界での食性は様々であるが、飼育下では雑食性として解釈するとよい。多くの種に推奨される給餌内容は50%の動物質と50%の植物質であり、動物質のものとしてミミズ、ナメクジ、昆虫、その他の節足動物もしくはドッグフードや水棲ガメ用のペレットを与え、植物質のものとして緑黄色野菜や豆類、イモ類等の野菜を主に少量の果物を与えるとよい。偏食しがちな種が多いが、できるだけ多種の食物を食べるように訓練しないと栄養性疾患に陥りやすい。ハコガメ専用のペレットも市販されており、食べる場合はこれらを主食としても悪くない。給餌は幼体には毎日、成体には2日に1回ぐらいを目安に行う。
陸ガメのほとんどは草食性であり、通常は植物質のものを与える。一般的に推奨されている給餌内容は90%以上の葉野菜(濃緑色の葉を持ち、カルシウムと繊維質に富んだもの、例えば小松菜、チンゲンサイ、ダイコンの葉、サラダ菜、モロヘイヤ等)と10%までのその他様々な野菜(マメ類、イモ類、カボチャ、ニンジン等)である。果物は嗜好性のよいものが多いが、草食性のカメに適した栄養組成のものはほとんど存在しないため、与えてもごく少量にすべきである。

冬眠について

温帯域に棲息するカメは寒くなると冬眠する。飼育下で冬眠させるのは簡単ではなく危険があることを考慮しなくてはならない。しかも健康に飼育するためには必ずしも冬眠が必要なわけではなく、一年中暖かな環境をつくることにより快適な生活をさせることが可能である。ただし繁殖を目的とした場合は冬眠が必要となる。また熱帯産のカメでは冬眠できない。
本州に棲息する野生のクサガメ、イシガメ、ミシシッピーアカミミガメ(帰化している)は通常11月頃から冬眠に入り、翌年3月中旬頃に冬眠から覚める。これらのヌマガメは水温が20℃以下になると食事をやめ、水温の低下に伴い冬眠の準備のため池や川の水底にある泥や落ち葉の中にもぐるようになるが、かなり冷えるまではときどき水面に出て呼吸する。水温が15℃以下になると完全な冬眠に入り、潜ったままでてくることはなくなる。この間の呼吸は咽頭の粘膜や総排泄腔内の毛細血管、皮膚呼吸によって賄っている。

冬眠のさせかた

冬眠に先立って、夏場に十分な栄養を与えることが重要で、栄養状態の悪いカメや小さなカメは冬眠を見合わせたほうがよい。水槽で冬眠させる場合、深さが30cm以上のものを用意する。平均気温が20℃ぐらいに下がってからは食餌は与えず、水底に落ち葉や泥を15cm以上入れる。水底に潜っている時間が長くなってきたらできるだけ涼しく静かな場所に水槽を置くべきで、暖房等の影響を受け中途半端に温度の上がる場所は、完全な冬眠に入れずカメの体力を消耗させてしまう。
水深はカメの様子をみながらできるだけ深くしていった方が、水温が安定しやすい。冬季は水温が15℃以下で、凍ってしまわないような管理が必要である。冬眠から覚め、カメが動き出したら通常の水槽に戻すが、すぐには食餌しない。水温が上昇していき25℃に近づくと食べ始めるが、衰弱しているようであれば自然に温度が上がるのを待つより、ヒーター等で温度管理した水槽に早めに移すほうが安全である。
屋外の池で飼育している場合は、底に泥や落ち葉があれば寒くなると自然に冬眠する。水深40cm以下の浅い池や、水が凍るほど寒い地方では冬眠させないほうが安全である。

産卵および孵化

日本に棲息するヌマガメは5~8月にかけて池や川の近くの土や砂に穴を掘って産卵する。1回に4~11個の卵を1シーズンに1~3回産卵する。産卵に先立って1ヵ月ほど食欲がなくなるので、飼育下でそのような兆候がみられたら、産卵場所として砂や土を敷いた場所を提供する。産卵場所を決めた雌ガメは後肢で約1時間かけて穴を掘り、その後直ぐに産卵し始める。産卵は約30分で終了し、次に埋める作業に入るがこれも約30分かかる。産卵場所がないと水中に産み落としたり、卵塞の原因となることもある。野外での自然孵化は60~90日で、夏中に孵化した子ガメはそのまま土の中から出てくるが、孵化が秋以降であれば、子ガメはそのまま土の中で越冬し、翌春地上に出てくる。
人工孵化させる場合は適当な容器を用意し、産卵してあった場所の土や砂を約20cm入れ5~10cmの深さに埋め、乾燥しないように保つ。また水を染み込ませたミズゴケやバーミキュライトを強くしぼったものを5cmぐらい敷き詰め、卵全体が隠れる程度の浅めに埋めても良い。トリの卵と違い、発生を始めたカメの卵は転卵すると胚の位置が変わり死亡するため、移動する場合には上にあった方に印をつけ、向きが変わらないように配慮する。
26~30℃の暖かい場所に置いておけば約2ヶ月で孵化する。多くのカメは孵化するまでの温度の高低により性別が決定される。クサガメでは26.8℃以上でメスに、それ以下の温度ではオスが生まれる。孵化直後のカメには腹部に卵黄嚢があり、そこから栄養を吸収するためすぐに食餌はしない。また完全に卵黄嚢が吸収されるまでは水槽(水中)に入れず、ミズゴケの上に置いておく。

サルモネラ菌について

カメを含む多くの爬虫類は、いくつかの血清型のサルモネラ菌のキャリアーとなり得る。サルモネラ中毒のすべての原因がカメにあるのでないことは言うまでもないが、このことは公衆衛生学上重要なことであり軽視することはできない。よって、飼育に際して以下のようなことに注意する。

  • 人間の食事を作る場所でカメの水槽や飼育設備を洗わない。
  • カメ(その他の動物であっても)を触った後は、消毒用石鹸で手を洗う。
  • カメ(その他の動物であっても)の世話をしながらの飲食は行わない。
  • 水槽や飼育設備の清掃は周期的におこない、常に清潔に保つ。
  • 新しくカメを導入する際は検疫期間をおき、健康状態が確認されるまで必要以上に触らない。
  • 上記の注意点を幼児や老人、病人に対しては特に徹底する。

注意すべき病気

鼻水症候群(Runny Nose Syndorome:RNS)

種々の原因により鼻汁を呈する上部気道の障害をいい、陸ガメに好発する。

  • 【原因】細菌、真菌やウイルスによる上部気道の感染が直接の原因であるが、誘発する要因として環境温度の低下やストレス、栄養障害(とくにビタミンAの不足)による免疫力の低下や気道内異物、砂や土等の粉塵による気道刺激が考えられる。
  • 【症状】鼻汁が主症状であり無色透明で非粘調性なものから黄色っぽい燃調性のあるものまで様々である。
    進行に伴い片側もしくは両側の鼻孔が変形したり閉塞することもある。
    病変部が上部気道に限局している間は、明瞭な一般状態の低下をあまり認めない。

肺炎

上記のRNSの症状に一般状態の異常(食欲不振、活動性の低下等)が伴う場合では肺炎を起こしていることが多いため慎重に評価しなくてはならない。また、水棲のカメにも細菌を原因とする肺炎がよくみられる。

  • 【原因】RNSのような上部気道からの波及が一般的である。
  • 【症状】RNSの症状(鼻汁)に加え、食欲不振、活動性の低下等、一般状態の不良を認めることが多い。
    気道の分泌物が増加するに従い、呼吸様式の異常(開口呼吸、頭部を大きく動かす努力呼吸等)や異常な呼吸音、口腔内に泡沫状の液を認めるようになる。
    水棲ガメでは肺に炎症産物が貯留することにより浮力が低下し、泳ぎ方の異常(傾いて泳ぐ、うまく浮かべない等)を認めるようになる。

チアミン欠乏症

  • 【原因】チアミナーゼ(チアミン融解酵素)を含む食餌の与えすぎ。
    チアミナーゼは冷凍した魚や貝に多く含まれるため、通常魚食性の強い種(ヌマガメを含む水棲ガメ等)で起こりやすい。
  • 【症状】食欲不振が最初の兆候であり、進行に伴い体位、行動の変化や筋肉の振戦、時に失明を起こす。

ビタミンA欠乏症

  • 【原因】食餌中のビタミンAもしくはβ-カロチンの不足が原因。
    生きた動物の肝には充分なビタミンAが含まれているし、緑黄色野菜には十分なβ-カロチンが存在する。
    精肉、ハムやソーセージ、魚の切り身、ムキエビ、乾燥赤虫等ビタミンAに乏しい食餌を与えられる機会の多いヌマガメを含む水棲ガメで発生率が高い。
    特に幼体期にはビタミンAの要求量は高いと考えられている。
    レタスやキュウリといったβ-カロチンの乏しい野菜を与えられている陸ガメやハコガメにも発症することがある。
  • 【症状】粘液分泌腺構造の変性が生じ、眼瞼の腫脹(ハーダー腺炎)や呼吸器疾患(鼻炎等)に陥りやすくなる。

代謝性骨疾患(Metabolic Bone Disease:MBD)

食餌中のカルシウムの不足とリンの過剰
自然界での爬虫類の食餌はカルシウム:リンが平均1:1から2:1あるが、飼育下では逆転することが多く、ときに1:40にもなる。 肉食性のカメでは骨成分を含まない精肉、ハム、ソーセージ、魚の切り身等やカルシウム:リン比の悪いコオロギ、ミルワームといった昆虫ばかり与えられることにより起こる。
草食性のカメでは通常カルシウム含量の多い葉野菜や雑草を主食として与えられるべきであるが、レタスやキュウリ、果物等といったカルシウムに乏しい食餌が主になったり、動物質、植物質を問わずタンパク質を多給した場合に起こる。
ビタミンD3の欠乏
食餌中のビタミンDの不足もしくは中波長紫外線(UVB)の照射不足。
動物質の食餌にはビタミンDが含まれていることが多いが、植物質の食餌には通常含まれていない。カメはUVBの照射により、皮膚の分泌成分からビタミンD3を合成することができる。それゆえにUVBの供給がされていない、草食性のカメに起こりやすい傾向にある。
症状
骨で構成されている甲羅に明瞭な障害を認めやすい。
陸ガメでは背甲板の一つ一つがピラミッド状に変形したり、腹甲板に凹凸がみられることが多く、水棲ガメでは身体の成長に甲羅の成長が伴わないため頭部、四肢等が甲羅内に入らない体形になったり、背甲の辺縁が反り返ったりすることが多い。また陸棲、水棲ガメを問わず甲羅が南下することがある。
四肢の骨格の異常に伴い歩行困難やうまく泳げなくなることがある。
顎骨の変形に伴う咬合不正から嘴の変形(過長)等を生ずることもある。
二次性上皮小体機能亢進症を起こすと低カルシウム血症による食欲不振や活動性の低下、排泄がなくなる等の非特異的な症状や時にテタ二―を生ずる。
予防
カルシウム:リン比の正しい食餌を与える
草食性のカメにはコマツナ、チンゲンサイ、ダイコンの葉、モロヘイヤといった葉野菜を中心(食餌全体の90%以上)に与える。
肉食性のカメには食餌となる生物丸ごとを与える。例えば小魚丸ごとや骨ごとミンチにしたものを適量与えるようにする。また質の良いカメ用ペレットに餌付かせる。
一部のハコガメ等のように昆虫を好むものでは、できる限り自然の中で採集したてのものを与えたり、コオロギ、ミルワームといったカルシウム:リン比の悪い昆虫を与える際には前もってこれらの昆虫をカルシウム含量の多い餌で飼育してから与えたり、昆虫にカルシウムの粉末をまぶしてから与えることでカルシウム:リン比が正しくなるように努める。
日光浴もしくはUVBを含むフルスペクトル灯の照射
最良なのは自然光(太陽)による日光浴であることは言うまでもなく、1日に30分から1時間程度、屋外に出すとよい。この場合の注意点は熱射病に配慮し直射日光から身を隠す日陰を提供したり、高温になり過ぎない場所や時間帯を選ぶことである。
フルスペクトル灯はいくつかのメーカーから多少組成の異なるものが販売されているが、ビタミンDを合成するためのUVB要求量が明らかにされていないのでどれを選択するべきか、また使用法と効果については不明確な部分が大きい。しかし日光浴ができない環境では利用価値が高く、経験的に効果があると考えられている。通常60cm以内の高さから照射し、UVBの放射される寿命を2000時間までとして使用すれば有効とされている。また紫外線の人体への悪影響を配慮すると人間用に開発された製品を使用する方が安全であろう。
ビタミンD3を含むフードや、栄養剤の使用には注意が必要である。ビタミンD3の過剰は転移性ミネラリゼーションを起こす可能性があり潜在的に危険である。各種におけるビタミンD3の要求量は明らかにされておらず、使用する場合は月に1回ぐらいにした方が安全と多くの爬虫類専門獣医師が考えているようである。

口内炎

  • 【原因】細菌、ウイルス、真菌等の感染が直接の原因であり、誘発する要因としては環境温度の低下やストレス、栄養不良による免疫力の低下、不衛生な飼育環境等が挙げられる。
  • 【症状】通常食欲不振となる。また食べる意志をみせるものの食べにくそうにする。
    口腔内には充血がみられたり、黄白色のプラークの形成、潰瘍や出血を伴うこともある。進行すると顎の骨髄炎になる危険性もある。 陸ガメのヘルペスウイルスによる口内炎では主として下顎が侵され、しばしば頸部の広範囲にわたる浮腫を伴う。

中耳炎

水棲ガメやハコガメに好発する傾向がある。

  • 【原因】細菌感染が一般的な原因であり、口腔内に開口する耳管が感染経路と考えられている。
  • 【症状】鼓膜の片側性もしくは両側性の隆起。食欲不振を伴うことがある。

甲羅の感染(甲羅腐乱)

水棲のカメによくみられるが、不衛生な飼育環境下のハコガメや陸ガメにも見られることがある。甲羅に限局している場合は一般状態に問題は少ないが進行すると敗血症を起こし致死的となることもある。

  • 【原因】細菌や真菌の感染が直接の原因であるが、誘発する要因として環境温度の低下やストレス、栄養不良による免疫力の低下や不衛生な飼育環境が挙げられる。

消化管内異物

  • 【原因】水棲ガメ、陸棲ガメを問わずカメの中には飼育環境内の食物以外の物を口にする悪癖をもつものが少なくない。床材に使用されている砂利、小石、人工芝等がよく食べられるが、これらは少量であれば糞便中に排泄されるものの、多量に摂取したりカメの代謝が落ちている場合、猫の砂等の濡れると固まるようなものを摂取した場合に排泄されず停滞から閉塞することがある。
  • 【症状】閉塞を伴わない少量の無毒性異物では多くの場合無症状であることが多い。
    完全な閉塞や長期に渡る停滞があると、次第に食欲不振から食欲廃絶、不活発となり衰弱していく。
    嘔吐がみられることもある。

消化管内寄生虫

カメでは糞便中に多数の線虫が排泄されることが多い。また糞便検査では線虫の幼虫や虫卵、繊毛虫や鞭毛虫といった原虫類しばしば認められる。これらの病原性については不明な点も多いが、多数の寄生や宿主の衰弱に伴い栄養障害、腸炎、腸閉塞から腸穿孔と言った明らかな障害を認めることもある。

  • 【線虫類】蟯虫と回虫が一般的である。共生関係にあるわけではなく潜在的に病原性と考えられるため駆除するのが望ましい。
  • 【原虫類】繊毛虫には病原性の強いと考えられるバランチジウムや陸棲ガメの消化を助けている(共生関係)と考えられるニクトテルス等があり評価は困難。
    鞭毛虫は潜在的に病原性(非共生関係)と考えられる。

甲羅の外傷

  • 【原因】転落事故、交通事故、何らかの人為的トラブルが一般的な原因であり、また意外に多い原因として犬による咬傷が挙げられる。

ペニスの脱出

水棲ガメ、陸棲ガメを問わず若い成体で好発する。

  • 【原因】過度の発情行動、同居ガメによる咬傷、自己損傷(ケージ内の物体にあたる、驚きにより脱出した状態で手足を引っ込めるため自分の甲羅で損傷する等)やペニスの炎症。

卵塞

  • 【原因】適当な産卵場所が提供されないときに起こりやすい。その他の要因として環境温度の低下やビタミンA欠乏症、カルシウム不足、脱水等が考えられる。
  • 【症状】食欲不振や不活発、落ち着きがなく産卵場所を求めて歩き回る、いきみ等がみられることが多い。

カメの甲羅について

カメの最大の特徴である甲羅は生活環境に適合するよう種によって多少の変化がみられる。50個以上の骨で構築された甲羅はその表面となる上皮組織が強靭で皮革のようなもの、硬いケラチン質の板が結合しているもの、スッポンのように柔らかなもの等さまざまである。背甲は水棲種では泳ぐのに適した流線型となったものが多く、陸棲種では防御的な意味をもつのかドーム型をしたものが多い。
その他キールと呼ばれる隆起配列した甲板を持つもの、全体が偏平なもの、背甲の後部が蝶番で折れ曲がるもの等が存在する。腹甲は多くのカメで平坦であり、頭、四肢、尾を収容できる大きさをもつが、一部には収容不可能なほど極めて小さな腹甲をもつものもいる。また、ハコガメの仲間は蝶番のある腹甲を背甲側に屈曲させることのより収容した身体を完全に覆い隠せるようになっている。

四肢

多くの水棲種とハコガメでは手関節と足関節は可動性で明確な指があり、通常泳ぐのに適したみずかきと鋭い爪がある。それに対し、ほとんどの陸棲種では手関節や足関節は可動性でなく明確な指を持たないが、全身を持ち上げて歩行可能な丈夫な太い四肢をもつ。ウミガメの仲間やスッポンモドキのように生涯のほとんどを水中で過ごすカメ(通常産卵しか上陸しない)では四肢はオール状の鰭脚(ひれあし)となっている。

カメの消化器系について

歯の無い両顎は角質化した嘴(くちばし)で覆われており、食物を噛み切ったり、砕いたりする力を持っている。舌は短く肉厚であり、草食種では咀嚼に際して重要な役割をする。舌の奥の咽頭庭が喉頭になっており、咽頭上部は内部で外鼻孔と通じている。食道は太く、肝臓の左葉を通過して胃に通じている。胃は特別な機能を持たない一時的な貯留庫であり、幽門部で胆管と膵管が開口する。肝臓は厚くて大きく、通常接合した2つの葉で構成される。
小腸は不規則に紆曲(うきょく)しており、盲腸で大腸と接続する。草食種では盲腸が発達しミクロフローラによる発酵が消化を助けている。直腸は総排泄腔に開口している。

循環器系について

心臓は2心房1心室の3室で構成されているが、中隔の不完全な心室には隔壁のない3つの小室が存在し、左右の心房から血液が流入する。そのうち右心房の血液のほとんどはひとつの小室を通じて肺動脈に流入し、肺静脈から戻る左心房の血液は全身循環に入るものと肺に戻るものがあると考えられている。また心室の拍出部分を変化させることにより肺循環と全身循環へ拍出する血液の相対量変えることが可能であり、呼吸時には肺循環量、無呼吸時には全身循環量が多くなる。これにより水棲のカメでは潜水中に効率の良い血液循環を得ている。
またカメを含む爬虫類では鳥類同様、腎門脈系が存在する。すなわち骨盤付近および後肢の静脈は腎臓の毛細血管床に流入し、腎門脈を形成する。

呼吸器系について

外鼻孔は副鼻腔に通じ、口腔内に開口する。このことは唾液など口腔内の分泌物が鼻孔から排泄される可能性を示唆している。声門は舌の根元に位置し、短い気管は頚部を下って2つに分岐する。気管支は背側で肺に入る。カメの肺は、哺乳類の持つ肺胞の代わりに多くの隔室が集合した嚢状になっており細気管支を欠く。両肺は背甲直下に位置し、水棲種では浮力に関係している。カメの甲羅は肺の拡張を妨げるため、呼吸は頭部と四肢を動かし体腔内圧を変えることで行なっている。またカメを含む爬虫類は機能的な横隔膜を持っておらず、このことは強制的にものを排除するための咳ができないことを示唆している。スッポンや一部の水棲種では、より水中生活に適するように咽頭や皮膚から酸素を取り込むことが可能なものもいる。

泌尿器系について

一対の腎臓は背甲の尾側弓の中に存在し、短い尿管が総排泄腔の尿洞に開口する。カメには膀胱の他に一対の副膀胱があり、尿は尿道を通じてこれらに入り貯留される。窒素化合物の排泄は陸棲種では主に尿酸、水棲種では主にアンモニアと尿素として排泄される。

生殖器系について

雌の卵巣、雄の精巣はいずれも一対で、体腔内で腎臓のやや頭側に位置し、精管および卵管は総排泄腔内に開口している。雄では総排泄腔内に収容された大きな交尾器官があり、交尾時には突出して雌の総排泄腔に挿入される。哺乳類のペニスに似たこの交尾器官には尿道は存在しない代わりに精子を亀頭に導く溝が背側に存在する。

神経系について

眼球は大きく、種によって鱗状の眼瞼に覆われたり、鱗を欠く皮膚で覆われたりする。瞬膜および涙腺を持ち、比較的哺乳類の眼に類似するが、角膜にデスメ膜を欠き、網膜に血管分布がなく、強膜に存在する小骨が眼の大きさや形を維持している点で異なっている。ほとんどの種で視力に優れ、色彩の鑑別が可能である。
耳は眼の後方、やや腹側に位置し、耳介、外耳道を欠き、1枚の大きな鱗もしくは数個の鱗に覆われた鼓膜が存在する。中耳には細長い支柱(コルメラ)があって、表面からの振動を内耳の前庭器に伝えている。